治療について

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トップページ  治療について  高度生殖補助医療(体外受精)

高度生殖補助医療とは

卵巣から卵子を取り出し(採卵)、体外で精子と受精させた受精卵を子宮に戻すという治療法です。タイミング療法や人工授精では確認することができない、受精前後の胚の状態を確認できるため原因検索及び治療を行うことができます(受精しているかどうか、胚が成長しているかどうかなど)。一般不妊治療での妊娠が困難と判断された場合、次のステップとしてあるのがこの生殖補助医療(ART)です。

体外受精の流れ

当ARTセンターでよく採用されている治療の一般的な体外受精の流れです。

STEP1>>卵巣刺激

体外受精における採卵前の卵巣刺激法については、さまざまな方法や特徴があります。実際にスタートする際には、AMH(抗ミュラー管ホルモン)や実施周期の月経開始3日目前後のFSH、LH、卵胞ホルモン等のホルモン値、および経腟超音波検査での卵巣の状態(胞状卵胞数等)を考慮しながら、患者様ごとに、担当医からアドバイスをさせていただき、カップルのご希望も伺いながら決定していきます。

体外受精前の卵巣刺激法a)完全自然
(無刺激法)
b)マイルド法(低刺激法)c)高刺激法
排卵誘発剤なしb-1)クロミッドのみ
(またはフェラーマ)のみ
b-2)クロミッド
(またはフェラーマ)+注射
連日注射
c-1)アンタゴニスト法
c-2)ショート法
c-3)ロング法
c-4)PPOS法
平均採卵数~1個約2個(1~3個)約5個(3~7個)約10個(5個~)
体への負担少ない少ない比較的少ない大きくなる可能性あり
薬剤料の経済的負担軽い軽いやや重い重い
胚移植キャンセル率高い比較的高い比較的低い(※)低い(※)
凍結胚ができる確率低いやや低い比較的高い高い
採卵あたり妊娠率
(新鮮胚移植の場合)
低いやや低い高い高い
完全自然(無刺激法)マイルド法(低刺激法)高刺激法
メリット排卵誘発剤の副作用なし。
排卵誘発剤の費用がかからない。
自然に成熟した卵子が回収できる。
排卵誘発剤の副作用が少ない。
妊娠率も比較的高い。
多数採卵でき、妊娠率も高い。
凍結胚ができることが多く1回の採卵で複数回の移植のチャンスがある。
デメリット採卵数が少ない。
採卵や胚移植のキャンセル率が高い。
採卵あたりの妊娠率が低い。
高刺激よりはキャンセルが多い。卵巣が腫れすぎる副作用が起こり得る。
排卵誘発剤の費用が最もかかる。

STEP2>>採卵

卵子は卵巣の中に発育してくる卵胞という袋の中に入っています。採卵の際には経腟超音波モニターにこの卵胞を写し出しながら採卵針を用いて卵胞を穿刺し、卵胞の中に入っている卵胞液を吸引すると同時に卵子を採取します。

当センターでは発育した卵胞数によって、「坐剤のみ」、「局所麻酔」、「静脈麻酔」から麻酔方法を選択します。採卵後はリカバリールームでお休みいただいてからの帰宅となります。

採精について

精子は採卵当日に必要となります。そのため、精液はARTセンター内にある採精室で採取していただくか、採卵当日の朝、ご自宅で採取した精液を当院にご持参いただきます。

当日の精液採取が困難な場合や、精子が極めて不良な場合には、採卵日よりも前に精子を凍結保存していただくことも可能です。ただし、凍結精子を使用して体外受精を行う場合には、融解後の精子の運動率や受精能が低下する可能性があるため、顕微授精となります。

STEP3>>受精

受精の方法には体外受精と顕微授精の2種類があります。精液所見に問題がない場合は体外受精が採用されます。精液所見が極めて不良で、体外受精による受精が見込めない場合や、過去の体外受精で受精しなかった場合は顕微授精が採用されます。

体外受精(IVF)

排卵する前の卵子を卵巣から取り出し(採卵)、あらかじめ採取しておいた良好運動精子を一つの卵子にふりかけて受精させる方法です。受精が確認されたら培養室にて2〜5日間観察し、正常に発育が見られる受精卵(胚)を子宮内へ移植します。

顕微授精(ICSI)

運動良好精子を人為的に一個だけ選び、細いガラス針管を使って採卵した卵子に直接注入する方法です。一般的には体外受精を行っても妊娠に至らなかった場合や、精液中の精子濃度や運動率が低く受精しないと判断された場合に行われます。

体外受精と顕微授精のメリット・デメリット

体外受精顕微授精
メリット受精が自然に近い
40年の歴史がある
受精率がより高い
精液所見不良でも受精可能
デメリット顕微授精に比し受精率が低い
受精しないことがある
人工的な受精法である
歴史が体外受精より浅い

ART取り違え防止システムについて

体外受精をはじめとする生殖補助医療では、精子や卵子の取り違えは絶対に起きてはならないことです。ARTセンターでは、培養室内でのあらゆる作業に徹底したダブルチェックを行うとともに、ICチップを使用したART取り違え防止システムを導入し、取り違えの完全防止に努めております。

STEP4>>胚培養

受精後、胚は培養室の中で最大7日間培養します。 受精及び胚発育は、本来は卵管で起きる現象であるため、その環境を徹底的に再現する必要があります。ARTセンターでは複数の培養液を準備し、受精卵の発育がよくない場合には異なる培養液での培養方法を実施し個々の患者様にあった培養環境を提供できるよう心がけています。

ARTセンターではタイムラプスインキュベーターを採用しています。「胚の培養環境の改善(インキュベーターから出さずに胚を観察できるので、培養環境の変化を防ぐことができる)」と、「多くの形態学的な胚の情報に基づく高品質の胚の選択(15分間隔で胚を撮影することで、継続的な胚の評価が可能)」が可能となります。

STEP5>>胚移植

胚移植用の柔らかいカテーテルを用いて、腟から子宮内に胚を戻します。胚移植の際には痛みはほとんどないため、原則的に麻酔は必要ありません。胚移植後はリカバリールームでしばらくお休みいただき、そのまま帰宅していただきます。胚移植後は通常どおり生活していただいて問題ありませんが、激しい運動や非日常的な行動はなるべく避けていただくようにお願いしています。

胚移植の数について

移植胚数は原則的に1個です。複数個を同時に移植することでその周期の妊娠率は上昇しますが、最終的に妊娠に至る確率は変わらない一方で多胎妊娠のリスクは上昇します。このため、日本産科婦人科学会でも、移植胚は原則1個にするよう勧めています。

SETP5−2>>黄体補充

採卵後に黄体ホルモンを補充することで、子宮に戻した胚が着床しやすい内膜の環境を作ります。

STEP5−3>>妊娠判定

胚移植から10~12日目(胚移植の時期による)に来院していただき、妊娠の有無を正確に判定するために血液検査(hCG)で妊娠判定を行います。

STEP6>>胚凍結

排卵誘発剤を使用した刺激周期の採卵では、複数の受精卵が得られる可能性があります。採卵周期で子宮内に戻さなかった余剰胚を凍結保存しておくことで、次の月経周期以降に、凍結していた胚を融解して移植することができます。長期保管が可能なため、二人目の妊娠を希望したタイミングで移植することも可能です。

胚凍結法(ガラス化保存法)

ガラス化保存法による胚凍結は、胚が入っている凍結液を直接液体窒素に接触させ、ごく短時間で胚を凍結します。過去の凍結技術(緩慢凍結法)では氷晶ができてしまうことが胚の生存率を低下させてしまう一因となっていましたが、ガラス化保存法では氷晶が形成されないため、胚へのダメージを避けることができます。また、ガラス化保存法による凍結胚は、融解後の胚生存率が99%以上、妊娠率は30~45%と、緩慢凍結法と比較し飛躍的に成績が向上します。現在では国内だけでなく、海外でもこの方法による胚凍結が主流となりつつあります。

胚凍結保存のメリット・デメリット

メリット余剰胚の凍結保存により再度採卵することが避けられる
一度に1個ずつ移植でき結果的に多胎のリスクが減る
全胚凍結により卵巣過剰刺激症候群のリスクが減る
排卵誘発剤により子宮環境が悪くなっている可能性のある採卵周期での移植を避けられる
刺激周期の新鮮胚移植に比し、妊娠率が高い
デメリット凍結融解後、胚が戻らないことがある(稀)
ガラス化保存法による胚凍結の歴史がまだ浅い(20年程度)
透明帯が固くなる(→アシステッド・ハッチングにより解決できる)

アシステッド・ハッチング(AH)

凍結胚は卵子の外側を覆っている透明帯が胚凍結により固くなることがあり、凍結胚の融解後に透明帯が破れず、孵化ができずに着床できなくなる可能性があります。このため、アシステッド・ハッチングという技術により透明帯に穴をあけて孵化を手助けし、妊娠率を向上させることができます。